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甘?い……と、思います←
白哉さん→ヒロインで、コンセプトは憧れと恋の間。
「坊ちゃん、白哉坊ちゃん」
自らを呼ぶ声に振り返ると、縁側に腰を下ろした女性と目が合った。
彼女は長いことこの屋敷の使用人をしている女性で、白哉も、幼い頃から世話になっているひとだった。
ふわり、微笑んだ彼女は、携えた盆から湯飲を下ろして言葉を続ける。
「そろそろ休憩されては如何ですか」
「……ああ、すまない」
短く言って、縁側へと踵を返す。
すると彼女は、いつものように濡れ手拭を差し出した。それで汗を拭うと、幾分体温が下がって楽になった気がした。
「お一人で鍛練に励む坊ちゃんを見ていると、わたくしが坊ちゃんにものをお教えしていた頃が懐かしゅうございます」
穏やかに微笑したままで、彼女は呟くように言った。
ただの使用人にしてはあまりに聡明で腕の立つ彼女から教わったことは、確かに多い。
しかし白哉とて、もうこのひとの背を追いかけてばかりの子供ではなかった。
「一体いつの話をしている。私はもう、貴女に世話ばかりかけていた幼子ではないぞ」
「ふふ、勿論承知しておりますよ。坊ちゃんは、本当に立派な殿方になられましたもの」
僅かに反駁すると、思いがけず、慈しむような、愛おしむような視線を向けられて、少しだけ、背筋がこそばゆかった。
けれど、白哉がそれを払拭しようと口を開きかけた正にそのとき、額に落とされた、触れるだけのほの甘い口付け。「女子と思うてご油断召されましたか?」と、彼女は冗談めかして笑った。そして白哉が答えを返すより先に、やけに真剣な面持ちで口を開く。
「どうか誰よりも何よりも、強うおなりくださいませ。いつか、大切なものを守れるように」
まっすぐに白哉の瞳を見据えて、まるでそれが最後の教えであるかのようにゆっくりと、彼女はその言葉を紡いだ。
(強くなる。いつかこの世のすべての悲劇から、貴女を守れるように)