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ヒロイン=ミネルバクルー。若干ヤンデレ気味。
「シン!」
廊下の角に見つけたその背中を思わず呼び止めて、わたしはシンの傍へと駆け寄った。振り返ったシンは「どーかしたんですか?」と小さく首を傾げる。レイから最近うなされているとは聞いていたけれど、確かに少し顔色が悪い。そして、その原因足り得る出来事の心当たりと言えば、ひとつしかなかった。
わたしは口を開きかけるものの、結局、何を言えばいいのかわからなくて先が続かない。そうやってまごまごしていると、シンが心配そうにわたしを呼んだ。ひどく情けない顔をしていることは自分でもわかっている。だからそれを誤魔化したくて、わたしはシンに抱きついた。
「わっ……本当にどうしたんですか? 何かあったんですか?」
「なんでもない。けど、ちょっとだけ、このままでいて」
肩口に顔をうずめて、子供みたいに縋りついて。気遣ってくれるシンに、わたしはぼそぼそと言葉を返す。すると、最初こそ戸惑っていたシンも、やがてわたしを抱きしめ返してくれる。背中を撫でるそのてのひらは、ひどくあたたかい。
わたしは泣きそうだった。つらいだろうに苦しいだろうに、わたしにはその痛みがわからないから。
「シンは優しい。優しすぎるの。それがあんたの良いところだって、わかってるけど」
「……でも、レイは弱さだって」
「ザフトの軍人としてはね。でも、そんなのはひとつの考え方に過ぎないわ」
勿論、あの日アスランとメイリンを討ったことは、シンにとって、それこそ想像を絶するほどつらいことなのだとは見当がつく。わたしだって仕方がなかっただなんて言いたくないし、そんな風に簡単に割り切れることでもないのもわかっている。それでもわたしたちは軍人で――やっぱり、上からの命令に逆らうことはできないのだ。それに何より、全てはもう終わっている。今更あれこれ考えたって、きっとシンは自分を責めてしまうばかりで、どうしても、わたしはそれを不毛だと思ってしまう。
そんな風に考えていながら、「だって、それだけじゃないでしょう? シンは軍人だけど、その前にただの16歳の男の子。シン・アスカという一人の人間にとって、優しいってことは何より大切なことよ」。(確かにそれも本心ではあるのだけれど、)口では綺麗事ばかりを並べ立てる己に吐き気がする。どんなに繕ったって、その薄っぺらな上澄みの底に沈むひどく醜い感情は消えやしないのに、ね(たくさんのものを想うその優しさはいつかシンの心を殺す)(全てを守るだなんて到底無理な話で、どうしたって幾つかはこぼれ落ち、)(その度に傷付いて泣いて、それでもまたその手に全てを抱えようとする)(どうしてそこまでできるの、しなければならないの)(……どうして、たった二本きりのその腕をわたしだけのものにできないの)。
「わたしはそんな優しいシンがすき。だいすきよ。だけど、お願いだからもうこれ以上傷付かないでちょうだい」
(いっそ、こんな馬鹿みたいな争いも悲しみもない優しい場所に閉じ込めておけたら、)(ねえ、そうしたら、わたしだけを見てくれる?)