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DESTINY:ステラ/title by 選択式御題
ヒロイン=ミネルバクルー。本職は研究者。
ステラがミネルバで捕虜になってた頃の話。

 エクステンデッド――薬物等による特殊な処置を施され、コーディネイターに対抗しうる能力を強制的に付与されたナチュラル。
 話には聞いていたし、事実、軍医から受け取ったデータの数値はどこからどう見ても極めて異常。(わたし自身がコーディネイターだからかもしれないけれど、)遺伝子操作の方がずっと健全に思えてくるほどに、その発想はとち狂っているとしか言いようがない。構想の時点で非難されて然るべきそれを、既に実戦投入までしていると言うのだから尚更だ。ただ、研究者の端くれとしては、やはり少なからず興味深くもあるのだけれど。

「それでも、見た目は普通の女の子よね……」

 ベッドに拘束された少女を見下ろして、わたしは思わず小さく呟く。
 最初こそひどく暴れていたものの、鎮静剤の効果かそれとももうそうするだけの気力もないのか、今では目を覚ましても大人しくしているらしい。こうして見ると、この子がエクステンデッドであることはおろか、軍属で、しかもよりによってガイアのパイロットだなんて何かの間違いのような気さえする(あの三機には、毎度毎度手を焼かされてきたのにね)。
 「……ネオ、」。小さく、縋るような祈るような声がして、わたしは思考を切り上げる。何度も何度も譫言のように繰り返されるそれは、誰か、大切なひとの名前なのだろうか。見兼ねたわたしは思わずベッドの端に腰を下ろして、その少女の髪を撫でる。すると、彼女は僅かに身じろいで、それから、ゆっくりと瞳を開いた。

「シン……じゃ、ない……。だれ……?」

 ギリ、と、伸ばそうとした手が拘束具に阻まれて軋む。「ごめんなさいね。あまり酷いことはしたくないのだけど」。わたしはその手を握って、「初めまして、ステラ」。彼女の名を呼び、自らの名を告げる。ステラはそれを、まるで小さな子供のようにたどたどしく繰り返した。

「……あったかい」

 ふわりと、ステラは笑った。華奢な指先でゆるくわたしの手を握り返して。消えてしまいそうに小さな声でそう言って。わたしも笑顔を返したけれど、うまく笑えたかはわからない。
 実際はわたしの体温が高いと言うより、ステラの体温が低下しているのだ。少しずつ、それでも確実に、ステラは衰弱していっている。けれど、如何せん特異すぎるその身体には、どう対処することが正しいのかわからない。
 軍医の見立てによれば、(こういう言い方はしたくないのだけど、)定期的に何らかのメンテナンスが必要なのではないかとのことだった。わたしもそれに異論はない。ステラはその存在が丸ごと連合の軍事機密なのだ。生体である以上、今この状況のように捕虜となる可能性だって十分にあり得るのだから、万が一の場合には自壊するように作られていると考えるのが妥当だろう。
 それでも、おそらく司令部はステラの延命を求める。エクステンデッドの生きたサンプルがほしいからだ。つまり、今この瞬間ステラの命を繋いだところで、身体が生き永らえるというただそれだけのこと。結局、ステラという個は殺される。どのみち、ステラを救うことなど出来やしないのだ。

***

「どう? 何か、わかったかしら」
「いえ……私も専門ではありませんので、大したことは……。ですが、艦長。私は、彼女をこのままこの艦に乗せておくことには賛同しかねます」
「そうは言っても上からの指示だもの。私にもどうしようもないわ。……けど、そうね。理由を聞かせてちょうだい」
「……彼女のために、シンがまた何か仕出かさないとは言い切れませんので」


(そしてわたしは、どこかでそれを期待しているのだ)(わたしには、彼女を救えない)

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