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ヒロイン=先輩パイロット。
時間軸としては、ミネルバの地球降下直後くらいのお話。
誰もいないラウンジで一人ぼんやりと時間を潰していたわたしは、ふと人の気配を感じて出入り口へと視線を向ける。すると、不思議そうな顔をしたシンと視線がぶつかって、「……あら」。そのまままっすぐわたしの方へと歩み寄ってくるシンに、わたしはふわりと微笑みかけた。
「眠れないの? 眠れるときに眠っておかないと、何かあったとき後悔するわよ」
「……あなたこそ。こんなとこで何やってるんですか」
おそらくはシンも私に似たようなことを言ってくれようとしていたのだろう。それを先取られて、シンは少しだけ拗ねたような声を出した。
「わたしはいーの」。冗談めかしてわたしは言った。どうせ眠れやしないんだから。
オーブはわたしが一番大切なものを失った場所。仮に眠れたとしても悪夢にうなされてすぐ目が覚めるなら余計に疲れるだけだ。それなら最初から眠らない方がずっとマシ。一日や二日眠らなかったくらいでは、人間は死にはしないのだし――なんて、嗚呼、そんなわたしの事情はどうだってよくて。
少しシンと話がしたいと思っていたから、これはこれで丁度いい。わたしはますます不思議そうに首を傾げるシンを隣に座らせて、「そんなことより、」と、その額をぴしりと叩く。
「シン。あんたね、すぐ熱くなるクセをどうにかなさい」
例えば、オーブのお姫様に対して。シンの言い分だって決して間違っていないと思うし、もしかしたら(シン自身に自覚があるかどうかは別として)、否定してほしい気持ちの裏返しとしてあんな態度を取ってしまうのかもしれない。けれど、あのお姫様にはそれを捌けるだけの余裕はおそらくない。そもそも、多くの犠牲を生んだ決断がそれでも正しかっただなんて、一体何人の人間が胸を張れるだろう。
それから、ユニウスセブンでのことだってそうだ。あのひとのことだから、また何か無茶でもしようとしていたのだということは想像に難くない。そして、シンはそれに付き合ってしまったのだということも(どこまでも真っ直ぐで優しい子)(……でも、このままじゃいつかきっとつらくなる)。
「そんなんじゃ命がいくつあったって足りないでしょ」。わたしだってあまり人のことを言えた義理ではないし、何より説教くさくなるのが嫌だったから、多くは語らないけれど。それでも、シンはきちんとわたしの言いたいことを理解してくれたらしい。バツが悪そうに視線を逸らすその姿がどうにも可愛らしくて、わたしは思わず小さく笑ってしまう。
「なに笑ってんですか」
「え? だって、可愛くって」
「かっ、可愛いとかっ……そんなこと言われても全然うれしくないですよ!」
「あーうんそうね。それじゃあ格好いいとこ見せてちょうだいな」
「……もしかして馬鹿にしてます?」
「まさか!」
耳敏くもわたしの笑い声を聞きつけたシンがじとりとこちらを睨む。わたしはそれに大仰に肩を竦めて見せ、それから、勢いよく立ち上がってシンと相対する。
「わたしはシンに期待してるの。だから、簡単に潰れたりなんかしないでよ」
くしゃり。シンの前髪をかき上げて、そうして露わになった額に唇を寄せる。ちゅ。微かに響くリップノイズ。シンは、何が起きたのかわかっていないような、そんな顔をしていた。
(どうかどうか、強くなってね)