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ヒロイン=人外メイド。
恋心のために死ねるかどうかとかそんな話だったりそうでもなかったり。
シリア、ス?
「坊ちゃん、アフタヌーンティーをお持ち致しました」
扉を叩いて室内へと呼びかけると、中から入室を促す坊ちゃんの声が聞こえて、私はゆっくりと扉を開く。すると、執務机に向かっていた坊ちゃんが顔を上げて、目が合うと、私はどうしても我慢できなくなって唇を笑みの形に歪ませた。
「……お前か。セバスチャンはどうした」
「セバスチャンは忙しくしておりましたので、僭越ながら本日は紅茶もスイーツも私が用意させていただきました」
どこか不服そうな坊ちゃんの問いに、私はカップに紅茶を注ぎながら応える。坊ちゃんはただ「ふぅん」と面白くなさそうに返事をした(もしかしたら、私のいけ好かないあの男の話題だったから、そう聞こえただけかもしれない、けれど)。
折角坊ちゃんと二人きりだというのに興を削がれてしまって、気を取り直すように、私はいつも以上に意地悪く言葉を紡いだ。
「セバスチャンのスイーツをご所望でしたかしら? けれど私とて、セバスチャンに負ける気はありませんのよ。……それに私には、セバスチャンの知らないとっておきの隠し味がありますもの」
敢えて含みを持たせたその言葉に、思惑通り坊ちゃんは興味を惹かれたようで、視線で私を促す。それでも私はそれに気付かないフリをして紅茶とスイーツを配膳し、鼻腔をくすぐる甘い香りと、焦れたような坊ちゃんの瞳に酔いしれる(いとしくて、いとしすぎて、いっそ苦しいくらいだわ!)。
「そのように剣呑な目付きをなさらないでくださいませ。もしかして坊ちゃんはご存知ありませんか? 料理は愛情、ですのよ」
「……馬鹿馬鹿しい。大体お前の愛なんて誰が信じられる?」
呆れたように笑う坊ちゃんが、一口、二口とスイーツを口元へ運ぶ。おいしいだなどとは言ってくださらないけれど、文句も出ないということは、少なくとも及第点、といったところかしら。
知らず、口元の笑みが深くなる。坊ちゃんはそんな私に一瞥をくれ、小さく鼻を鳴らした(この程度、ファントムハイヴ家のメイドとして当然のこと、ですものね)。
「私はこんなにも坊ちゃんをお慕いしておりますのに」
「その想いに殉ずることになっても、か?」
「えぇ、えぇ。私は最期、自らの恋心に取り殺されるのです」
坊ちゃんより先に死んではならない、坊ちゃんより長く生きてはならない――それが、私と坊ちゃんとの契約。いつまでも坊ちゃんのモノであるという、服従の証(どうせ坊ちゃんのいない世界になど価値はないのだから、)。
坊ちゃんが高圧的な笑みを浮かべる。私は空になったカップに紅茶を注いだ。
「それなら精々利用してやるとしよう」
「是非そうなさいませ。必ずや坊ちゃんの仰せの通り、万事果たしてみせますわ」
(深い深い水底へと堕ちてゆく、)(その先が天上であれ奈落であれ、私には逃れる術などない)