[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
ヒロイン=人外メイド(と言ってもお話の中に人外要素は皆無←)。
坊ちゃんに怒られてみたり坊ちゃんをからかってみたり、まさに俺得な内容。
「坊ちゃん、お呼びでしょうか」
もう随分と月も高いというのに、静かな屋敷の邸内に自らを呼ぶベルの澄んだ音色が響いて、私は愛する主の寝室の扉を叩いた。
「坊ちゃん?」。けれど部屋の中からは何の返答も返ってはこなくて、少し不審に思った私は、薄く扉を開いて中の様子を窺う。すると、広いベッドに横になったシエル坊ちゃんと目が合って、その不機嫌そうな面持ちに、こっそりと胸中で溜息を吐き出した。
「遅い」
「申し訳ありません」
慇懃に腰を折って遅参を詫びる。それでも坊ちゃんは機嫌を損ねたままで瞳を眇めたから、私はベッドの傍らに跪いて、その真っ白な手の甲に唇を寄せた。
「けれど――、私とて、明日の準備をしておりましたのよ。手間取っていてはセバスチャンに怒られてしまいますもの」
坊ちゃんの細い指が髪を梳き頬を撫で、上質な楽器のように透き通る玉音が、言い訳を咎めるように私の名前を紡ぐ。くすぐったくもいとおしいその感覚が心地良くて瞳を閉じた。
「お前の主人はセバスチャンじゃない。この僕だ」。いかにも子供らしい独占欲はそれ故に甘美で、甘い余韻に浸りながら、私は坊ちゃんの手に自らのそれを重ねる。
「重々承知しておりますわ。私の主は、坊ちゃんだけ」
「だったら、明日の朝までここにいろ。絶対だ。僕が眠っても一歩もこの部屋から出るな」
「ふふ……。随分と可愛らしいことを言ってくださいますのね?」
小さく笑って呟けば、坊ちゃんはきろりと私を睨みつけた。けれど私にとってはその姿すら愛しくて、思わず瞳が飴のように甘くとろける。
子供扱いされることを嫌う坊ちゃんの子供じみた小言に耳を傾けるのもそれはそれで悪くないのだけれど。それでも今日は、坊ちゃんの小言が始まる前に口を開いてそれを封じた。
「坊ちゃんの仰せの通りに。私は明日の朝坊ちゃんが目覚めるまで一切ここを動きません。だから、安心してお眠りください」
もしも坊ちゃんの白い目元に隈でもできればセバスチャンに怒られるのは私で、それに何より、坊ちゃんの体に障れば私が困るから。
「でも、その代わりにひとつだけ――、もしも明日、私がセバスチャンに怒られそうになったら、きっと、助けてくださりませ」
(仰せのままに。マイディアロード、貴方がそれを望むなら)