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ヒロイン=忍。悲恋というか不実の恋というか。
(触れたいと望まない訳じゃない。ただ、この汚れた手で触れたくないだけ)
「あいしています」
私はそのひとの青い瞳にひどく惹かれた。底の見えない深い青。海と同じ、その色。それは有体に言えば一目惚れなどという陳腐な感情で、けれど私にとっては全てを投げ出してしまえる程に大きな力を持っていた。
「だから私は、貴方の為に戦います」
私の家はいわゆる名家と呼ばれるもので、しかし、一族の名が公になることはほとんどなかった。それは私の父が侍ではなく忍だったからで、そして私は物心がつくその前から、女である前に一人の忍だった。
けれどいつしか一族の血は絶え、残されたのは私一人。
「私は忍。それ以外の生き方など知らないのです」
自らが主と定めた者は死んでも守れと、常々父が言っていたことを思い出す。
一族が死に絶え一人きりになっても、私にはこれ以外の生き方などわからなかった。だから私は何度も偽りの忠誠を売ったし、あまりに腹立たしくて守るべき主の首を刎ねてしまったことさえもある。
父の言葉を裏切ってまで生きている価値が私にあるのかはわからない。
「あいしています。けれど、あいしてくれとは言いません」
それでも、私は出逢った。一生の忠誠を誓えるひと。見返りなんて何もいらない。ただ、傍にいて守りたい。その瞳が私の姿を映さなくても、その声が私の名を呼ばなくても構わない。
「触れることすら、望みません」
底の見えない深い青。海と同じ色を宿したその瞳。私にはわからない重い宿命を負ったその背中。
たとえほんの少しだったとしても、あのひとの助けになりたいと願う。
「これは私の我儘。もしも私が果てたなら、捨て置いてくだされば良いのです」
あのひとはとても優しいひとだから、戦いの度に私を自分から引き離そうとするけれど、もう、全ては手遅れで。
私の両のてのひらは既に、あのひとのそれよりももっとずっと汚れてしまっているから。善悪も何もない。私の手はただのひとごろしの手。そんな手で貴方に触れることなど出来るはずもない。
「それでもどうかその時までは、貴方の傍にいさせてください」
(「どうか最期まで、貴方の為に戦わせてください耀次郎さま」)(例えばこの手が血に染まぬ真っ白なものであったなら、きっと貴方を守れないから)