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史実結末その後。というか、捏造裏話?
ヒロイン=忍で、本編ヒロインとは別人。死ネタでしかも悲恋です。
下の部屋から、秀明さまの愛した姫君が泣きじゃくる声が聞こえる。わたしはそれを少しだけ羨ましく思いながら、天井の裏で声を殺して泣いていた。
「……秀明、さま」
口の中だけで小さく呟いた名前は誰にも届かない。愛しいこの名を幾ら呼ぼうとも、秀明さまが(偶の気まぐれでしかなかったけれど)わたしに視線を向けてくれることは、もう決してない。そもそも、今までわたしの言葉が秀明さまに届いていたと言えるのだろうか。
結局、秀明さまは最期までわたしを信頼してはくださらなかった。わたしがどんなに駆けずり回って命を遂行しても、奔走の末に失敗しても、特に興味もなさそうに「ふぅん」と呟くだけだった。いつだったか、わたしがひどくぼろぼろになって帰還したときも、秀明さまはただ、壊れた玩具を見るような目でわたしを見ていた。
けれどわたしはそれでも良かったのだ。玩具だろうが駒だろうが、秀明さまの傍に在ることが許されるなら。いつかほんの少しでも愛着を持ってもらえるのではないかと、そんな期待も、或いはしていたのかもしれない。
そんな折、彼女が現れた。
小綺麗な身なりにしっかりした礼儀作法。すぐに良いところの娘だとわかる立ち居振る舞い。秀明さまは「どうでもいい」と仰ったものの、どうしても気になって、わたしは仕事の合間を縫って彼女の素性を調べた。そうしてわかったのは、彼女がとある小国の姫君であるということ。どうやらその国の主(要するに彼女の父君だ)は病に伏せっているようで、だとすると彼女は、父の代わりに世の情勢を探っているといったところか。
まさか秀明さまを利用するつもりでは、と、悪い予感が頭をよぎる。そんなわたしの危惧とは裏腹に、次第に秀明さまは彼女に心を開いていった。
正直、わたしは嫉妬していたのだ。わたしが幾年月をかけて未だ得られないものを、いとも簡単に手に入れようとしている彼女に。秀明さまのお気持ちを享受できる彼女の立場に。だからこそ、わたしはどうしても彼女を悪者にしようと躍起になっていた。
それに気付いたとき、ひどく惨めな気持ちになったのを覚えている。けれど同時に、どこか安堵していたような気もする。彼女と過ごす秀明さまは、本当にしあわせそうに笑っていたから。これで諦めがつく、と。
嗚呼、でもそれはわたしの思い過ごしだったのかもしれない。だって、今まだこんなにも秀明さまが恋しい。決して愛されないことを知っていながら、それでも。
わたしは未だ、秀明さまに囚われているらしい。
(きっと永遠に、逃れることは叶わないのでしょう)