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ヒロイン=人外メイド。
切り裂き魔エピソードの捏造話。前半は駒鳥ネタです。
(……なんて滑稽。これではまるで、人間みたいだわ)
「お帰りなさいませ、――お嬢様?」
くす、と意地悪く口元を笑みの形に歪ませて主を見遣る。
すると案の定、坊ちゃんは誰の目にも明らかな程に不機嫌な面持ちで私を睨んだ。それがこの上なく楽しくて、私はより一層口元を歪めた。
「お前は僕に喧嘩を売っているのか?」
「失礼致しました。そのようなつもりではなかったのですが、あまりにお似合いでしたので」
言葉の端々に愉悦が滲む。たのしすぎてくるってしまいそう。
押し殺しきれなかった笑声にくつくつと喉の奥を震わせながら、白磁のカップに、淹れたばかりのホットミルクを注ぐ(満たされてゆく器を、まるで私のようだと思った)。そしてカップを差し出せば、坊ちゃんは不機嫌なままでそれを受け取った。あぁ、なんていとしいのでしょう。
「慣れない格好でお疲れになったでしょう? 事件も一段落したようですし、しばしご休息なさいませ」
「あぁ、これを飲んだら眠る」
カップを傾ける坊ちゃんの、少女のような横顔。今まで生き永らえてきた中で、こんなにも恋焦がれたことがあっただろうか。どんなに募らせても決して実ることのない不毛な恋心。或いは叶わないからこそ、私は飽きることなくこの恋を愉しんでいられるのかもしれない。
「……けれど、本当に事件は終わったのかしら」
ぽつりと、老婆心からかつい口を吐いて出た言葉。剣呑な色を宿した坊ちゃんの瞳が私を射抜く。
いとしいから失いたくないのか、たのしいから失いたくないのか。答えは出ない。けれど、どちらにせよ結局は同じこと。
「どういうことだ」
「ほんの少しの齟齬で真実は姿を隠してしまうものですわ。 ……やはり、悪魔など信用すべきではないのです」
わたくしは、あなたをうしないたくないのですよ。
刹那、鋭い視線が驚きに塗り替えられる。坊ちゃんは何か珍しいものでも見るかのように、ゆっくりと瞳を瞬いた(私は今、そんなに情けない顔をしています か ?)。
「お前は僕が信じられないのか?」
「いいえ、滅相もございません。この世界で唯一坊ちゃんだけは、私、何時如何なる場合においても信じておりますもの」
「だったら僕の言葉を信じろ。心配する必要なんてない。だから、……そんな顔をするな」
ふわり、唐突に坊ちゃんが表情を和らげる。勝気なその微笑に、くらり、目が眩む錯覚。
「イエス、マイロード」。坊ちゃんに返した私の声は、どこかうわ言じみていた。
(「それではおやすみなさいませ、坊ちゃん」)(私はまるで少女のように、貴方に恋をする)