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ヒロイン=ザフトのエースパイロット。
議長に籠絡されるお話。
「失礼致します、デュランダル議長閣下。お呼びでしょうか」
わたしが執務室へと足を踏み入れると、議長は手元の書類から視線を上げて、すぐさまわたしを迎えてくださった。「ああ、よく来てくれた。こうして顔を合わせるのは、随時と久しぶりだね」。わたしはぴしりと姿勢を正したままで答える。「はい。再びこうしてお会いできたこと、嬉しく思います」。すると何故か、議長は少し寂しそうに苦笑して。
「そう構えないでくれないか。知らぬ仲という訳でもないのだし」
「は、あ」
その言葉に、わたしは戸惑いを覚える。確かに、わたしの父と親交が深かったこのひとは、幼い頃からわたしを妹のように可愛がってくれていた。それでも、今のこのひとはプラント最高評議会議長であり、わたしはザフトの軍人なのだ。それに、わたしももう子供ではない。あの頃と変わらない態度を取れと言う方が、土台無理な話だ。
けれど、まるでそんなわたしの思考を読み取ったかのように、議長はふわりと笑って。「何なら、昔のように兄と呼んでくれても構わんくらいだ」。その表情は、大好きだったギルバート兄さまと何も変わらない。「もう、一体いつのお話ですか」。途端に、ふっと肩の力が抜けて、わたしもつられて笑顔を返した。
「君の活躍と、相変わらずのおてんばぶりは私もよく聞いている。破壊天使、だったか」
「……! や、やめてください。それは周りが勝手に言っているだけで、」
わたしは咄嗟に視線を落とす。顔を上げてなんかいられなかった。まさかその呼び名をこのひとの口から聞くことになるだなんて。『天使』だとか大層な字面もそうだけれど、何しろ、これは撃墜数と自機損傷率の高さを揶揄した名なのだ。その口ぶりからいって、この由来まで含めて知られているのだろうと思うと恥ずかしくなってくる。「はは、私は愛らしい名だと思うがね」。そんなわたしに議長は優しく言って、「しかし、」と言葉を続けた。
「数多くの賞賛すべき功績を持ちながら、君は昇格も叙勲も全て辞退していると聞く。何か理由でもあるのかな」
もしかして、これが本題なのだろうか。議長のその言葉に、わたしはますます顔をうつむけて押し黙る(地位にも勲章にも名声にも興味はない)(そういった類のものは、欲しい者がもらえばいいのだ)(わざわざ要らないと蹴るわたしのような変わり者のことなんかは捨て置いてくれれば、それで、)。いつもなら、それらしい理屈を並べ立てて煙に巻いてしまうのに。今は何故かそうすることができなかった。
議長は、それでもわたしを急かすことなく、ただ静かに、わたしが口を開くのを待ってくれている。ちらりと視線だけで様子を窺うと、目が合って、慈しむようなその表情がこそばゆくて、結局すぐに逸らしてしまった。「こんなことを言っては、きっと怒られてしまいますけれど、」。代わりに、わたしはぽつりと言葉を落とす。
「わたし、プラントやザフトのために戦っている訳ではないような気がするんです。ただきっと、自分がずっとMSに乗っていたいだけなんです」
わたしはMSに乗って、そして死にたい。わたしだって戦争がしたい訳ではないし、死に急いでいる訳でもない。それでも、わたしにはこれしかないから。
「だからわたしは上へは行けませんし、勲章もいただくことはできません」
最後にはしっかりと前を見つめて、きっぱりと、わたしは言い切る。すると、議長は一際穏やかに笑って、「ならば、私は君にこれを贈ろう」。立ち上がってわたしの傍に立ち、ふわり、その長い指が髪を梳く。「これ、は……」。そうして差し出されたのはFAITHの徽章。わたしが要らないと、受け取る資格がないと言ったものの中には、当然これも含まれているのに。その意図が掴めなくて、わたしはただ呆然と議長を見上げていた。
「君は君の信じるものの為に戦ってくれ。これは、それを助けてくれる。……というのは建前でね。実際は私が君を頼りにしているというだけなんだが」
(わたしにはこれを受け取る資格はない)(けれど、わたしはこのひとの期待に応えたい)(…………わたしが戦うのは、何の、ため?)